今回は文庫本の話し
なのだが、本の内容などはそこそこに、それらを手に入れた時のエピソードを振り返る。


先日、書棚に並んだ蔵書をぼんやり眺めていると、一角にある文庫本に目が留まった。


それは、寺山修司の5作品。
いずれの作品も何度も再販されているので、今でも入手可能なものばかりだが、発行時期を見ると昭和53年から56年まで、つまり、寺山が存命中に刊行されたもので、カバーが林 静一であることが特徴的。

林 静一(はやし せいいち)
1945年3月7日~
イラストレーター、漫画家、アニメーション作家。
1962年にアニメ制作会社東映動画にアニメーターとして入社、同期には宮崎駿がいる。
女性美の表現について「現代の竹久夢二」と評され、ロッテの梅味キャンディー『小梅』のキャラクター「小梅ちゃん」のイラストレーションや、同棲生活をテーマにした漫画『赤色エレジー』で知られる。
画家、実写映画の監督、アニメーション作家として多才な活動を見せている。



せっかくなので、それぞれ写真と簡単な説明を付けて紹介しておこう。

さかさま文学史 昭和53年12月20初版

天才詩人中原中也と女優長谷川泰子のロマンスの実相、近代文豪島崎藤村と姪こま子の恋の後日譚、彫刻詩人高村光太郎と妻智恵子の愛情物語の虚構など。
文学史上に燦然と輝く文豪たちの波乱に満ちた一生を陰に陽に彩る女たち。


花嫁化鳥 昭和55年2月25日初版

寺山修司が旅した日本各地に存在する不可思議な世界。
自らの手で集めた資料をもとに、奇妙な風習の謎を解き明かしていく。
日本人の血の原点を探った、寺山流のユニークな紀行文学。


さかさま博物誌 昭和55年3月30日初版

奇人、奇声、奇癖、奇書珍書、珍品、そして少年の日の憧憬、想い出など、詩人の想像力で蒐集した、ありとあらゆる「私有財産」を、物語というオブラートにくるんで披露する。
寺山ファン待望の、不思議に謎めいてバラエティに富んだ幻想博物誌。


さかさま恋愛講座 昭和56年3月30日初版

「少年」に対して「少女」があるように、「青年」に対して「青女」という言葉があっていい。
「結婚させられる」ことから自由になること。それがまず「青女」の条件。
そして「女らしさ」の呪縛から解き放たれることが、新しい女として生きるためのステップとなる。
確実に変わりつつある時代感覚を反映して、自由な女として個性的な人生を築くための新しいモラルを提唱する、「家出のすすめ」女性篇。


さかさま映画論 昭和56年10月25日初版

たくみに時代感情を反映し、刺激的な作品を発表しつづけている同時代の映画作家たち~
ゴダール、フェリーニ、トリュフォー、パゾリーニ、黒沢明など。
彼らの作品のテーマを、現代における愛と救済、破壊と創造、自由と束縛を模索する著者が、映像に即して、あるいは心象風景に重ねて縦横に論じた映画エッセイ。




さて、本題はここから。
これらを手に入れたのは7年前。
某オークションで、ひとりの出品者から個々に5作品を落札した。
応札者はおらず、初値で落とせた。
落札後の一般的な手順は・・・
 ① 連絡先、発送方法などの情報交換
 ② 所要代金(品物代、送料など)の支払い
 ③ 品物の受け取り、出品者への評価など
・・・という流れで、この取引きも同様だったろう。

私はオークションを利用する場合、③と同時に品物の受取り報告と、御礼のメッセージを必ず送ることにしている。
大抵の場合、出品者からお返しのメッセージが来て取引終了!となるわけだが、この出品者とはそこから改めてやり取りが始まったのである。
その発端は、届いた本の姿にあった。

文庫本5冊を郵送する場合、プチプチにまとめて包んでレターパックに入れるくらいが一般的なのだが、この出品者は1冊ずつグラシン紙で丁寧に包み、さらに、几帳面にもビニール袋で封入していたのだ。
これまで私はオークションで何冊も古本を落としており、出品者が古書店主の場合などにグラシン紙に包まれて届くことはあったが、さらにビニール袋で梱包された本などお目にかかったことがなく、大いに感激してしまった。

この出品者も古書店主なんだろうか・・・
などと考えながら、御礼とともに感激したことなどを取引ナビに書くと、間もなく出品者から返事が届いた。

出品者はご高齢の男性で、リタイヤしてずいぶん経つという。
千冊単位の蔵書が自慢の読書の虫なんだそうな。
オークションに参加することとなったきっかけは、知人の古書店主や、「本に埋もれて死んでもらっては困る・・・」とおっしゃる奥様の勧めがあったそうだ。
要するに終活の一環として、膨大な蔵書をオークションに出品することになったというわけである。
さらに驚くべきことに、一連の丁寧な梱包作業は、夫に終活を勧めた奥様らしいのである。

何度かやり取りして、そんな裏話しを伺うことができた。
取引終了後に出品者とやり取りするのは初めてだったが、実に楽しい機会だった。


今、その出品者のアカウントはどうなっているのか?
私との取引きは7年前、”終活”というから・・・

よかった、ちゃんとあった。
まだまだ元気にて、終活していらっしゃるようだ。
その出品数たるや、まさに千冊単位!
しかも良書ぞろい。

7年ぶりに入札して、その後の様子でも伺おうか。
奥様もお元気で、丁寧な梱包作業も続いているといいなぁ・・・