『魔笛』は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの作品。
初興行は1791 年9 月。モーツァルトは同年12 月に没しているので、死の直前に書かれた生涯最後のオペラである。
興行主エマヌエル・シカネーダーが自ら台本を書き、旧友で同じフリーメイソン会員だったモーツァルトに依頼した作品で、夜の女王と女王に敵対する大祭司ザラスト口を中心に、王子タミーノと女王の娘パミーナが試練を乗り越え、結ばれるまでを描く。
壮大で深淵なテーマを持つ芸術作品というよりは、大衆ウケを狙った歌芝居(ジングシュピール)だが、そこはやっぱりモーツァルト。
わかりやすい舞台進行に極上の音楽も相まって、今でも人気を博している。

この作品の見どころ(聴きどころ)は第2幕、「夜の女王のアリア」だろう。
夜の女王が「憎きザラスト口を殺せ!さもなくば母娘の縁を切る!」と娘パミーナに迫る場面で、コロラトゥーラと呼ばれる超絶技法で歌い上げる。
コロラトゥーラ・ソプラノは単に高音域の声が出るというだけでなく、高音域で自分の声を自在に、かつ表現豊かに操れなければならず、このアリアが歌えるのは世界に数人しかいないと言われている・・・

さて、ここからが本題。前置きが長くなってしまった。
今回は、世界のコロラトゥーラ・ソプラノの「夜の女王のアリア」を聴き比べてみようという企画。

まずは、歌詞とコロラトゥーラを知っていただくためにも、日本語字幕入り&日本人ディーバの紹介から始めよう。
この春、国内で『魔笛』への出演が予定されている安井陽子さんの夜の女王。

https://youtu.be/r-YLdRYf6cM

歌詞とコロラトゥーラ、お分かりいただけただろうか?
ザラスト口に対して炎のごとく燃え上がる夜の女王の憎悪が伝わってくるようだ。
芝居をしながら高音域を歌い上げるディーバたち、まさに職人技!

もうひとり、日本人ディーバを紹介。
ウィーンを拠点にヨーロッパで活躍中の若手、田中彩子さんの夜の女王。

凛として力ッコいい!そして、瑞々しく伸びやかな歌声。
これからたくさん経験を積むごとに艶も増してくることだろう。

さて、次はちょっと個性的な夜の女王、フランスのサビーヌ・ドゥヴィエル。

どうだろう、これまでのニ人とちょっと違う独特なアリアだ。
オペラやクラシック音楽は指揮者や演者の表現、解釈の違いで別ものになる場合が多々あり、それがまた楽しい。

さて、そろそろ私のお気に入りなディーバたちを紹介するとしよう。
ひとり目はドイツのディアナ・ダムラウ。
美しく、そして、パワフル!

前に紹介したサビーヌ・ドゥヴィエルが華著な麗人による繊細なアリアならば、ディアナ・ダムラウはがっしりとした体型から撃ち放たれるように力強く、メリハリの利いた美しいアリア。
海外発信の『魔笛』を手軽に映像で楽しむなら、ダムラウ作品がおススメだ。
日本語字幕はないが、英語字幕でもなんとかなる・・・と思う。

さあ、いよいよ最後のひとり。
My favorite Queen of the Nightは、ルチア・ポップだ。

動画はOperaTaiyaku オペラ対訳プロジェクから。おススメのチャンネル。


いやはや。この艶やかで表現力に富み、どこまでも流麗な歌声はどうだ!
ハイFを出しても「まだ余裕ありますわよ?」ってな感じで、ヒステリックなところがなく、安心して聴ける。
スロバキア出身のルチア・ポップは、この夜の女王役で劇場デビューを果たしたが、当時の指揮者が巨匠オットー・クレンペラーというから、才能だけでなく強運にも恵まれたディーバだった。(ただし、ノドを痛めるとの理由で以降の出演は拒んだらしい。)

余談になるが、ソプラノといえばマリア・カラスは?と思われる方もいるだろう。
今回の音源(映像)はYou Tubeで検索した結果だが、マリア・カラスの肖像とともに”マリア・カラスの” 夜の女王と謳う投稿が複数出てきた。
しかし、それらは全てルチア・ポップと思われる音声だった。
どんな経緯、目的でそうなったのか、知る由もないが・・・
私の知る限り、マリア・カラスの夜の女王はないと言われている。
もしも音源が存在していたら、ぜひ聴いてみたいものだ。

ということで、今回は完全なる自己満足の世界、何卒ご容赦を。
しかし、ひとりでも「オペラの世界、おもしろそう」と思った人がいれば大成功なのだ。

ではまた。Adiós!